学校現場×特別支援×働き方改革について考えるブログ

現役教員にしか書けないことを・・・。

「二重学籍」を認める制度変更を!~真のインクルーシブ教育のために~

「二重学籍」をweb検索すると、「同一の人物が2つの大学等で学籍を得ること」などと、二つの大学に在籍することを禁じる話がヒットします。

 

しかし、ここで私が主張したいのは、小学校・中学校・特別支援学校、つまり義務教育期間において「限定された条件のもとで、二重学籍を認めてほしい」ということです。現状では、例え1日であっても、二つの学校・学級に在籍することができません。このルールによって、児童生徒及び保護者が不利益を被る場合があります。いくつかのケースに分けて説明します。

 

 1 「院内学級」と「元の学校」

 様々な(精神的・肉体的)病気により、数週間~数年間、入院する子どもがいます。

 そういった子どもが、入院期間中の学習の遅れを生まないため、または遅れを取り戻すために、病院の中にある「院内学級」の授業を受けることがあります。

 院内学級では、病状をふまえて無理のない学習指導を行うだけでなく、児童生徒の不安を取り除くための働きかけをしたり、それまで通っていた学校の担任の先生と連絡をとったりと専門的な見地から適切な教育を行うことができます。

 このような院内学級ですが、多くの場合、近くにある特別支援学校の一部とされており、院内学級での授業を受けるために、児童生徒は「転校」する必要が出てきます。つまり、「転出→転入」の手続きをとることで正式に院内学級の授業を受けることができるのです。

 子どもや保護者にとって、この院内学級は「一時的にいる場所」であり、元いた学校は「本来いるべき自分の学校」です。このことから、「子どもに転校の事実を伝えられない」と言う保護者や、「転校が必要ならば院内学級での勉強をしない」と言う児童生徒が出てくるのは自然なことです。

 元の学校に在籍したまま、院内学級の授業を受けられるように制度を変更し、児童生徒と保護者が安心して治療や教育を受けられるようにしてほしいと考えています。

 

 2 「特別支援学校(盲・聾・知的・肢体不自由など)」と「地元の小中学校」

 2022年9月9日、日本は障害者権利条約に基づく審査を受け、国連から勧告が出されました。ここでは日本の特別支援教育が全否定されており、これまでの「障害者は特別支援学校へ」という全体的な構造を鋭く批判しています。

 障害を抱える児童生徒が特別支援学校で専門的な教育を受けることは、将来の自立に向けて重要なこともあるでしょう。しかし、特別支援学校しか選べなかった、という不幸な出来事はなくなるべきです。その意味でこの勧告は画期的であり、日本の特別支援教育が全面的に改善されることが望ましいと、私は考えています。

 ただし、納得して特別支援学校へ入学したケースがあるとして、その児童生徒が完全に地元の学校と縁が切れてしまうようでは、義務教育期間終了後の地域のサポートが受けられない恐れもあり、これも大変な課題です。

 特別支援学校にも在籍しつつ、地元の学校にも籍があり、日によっては一緒に時間を過ごすイベントが開ければ双方に様々なメリットがあります。一般の小中学生には「障害とは何か」を考えるきっかけを作れます。障害者への良い接し方を学べることもあるでしょう。義務教育期間終了後も、地元で障害者が困っていたら、「〇〇くん、大丈夫?」などと声をかけることができるかもしれません。障害者側も、知っている人なら安心してサポートを頼めます。

 障害のある児童生徒・保護者が地元でのつながりを維持できるような制度を作りたいものです。

 

 3 「通常学級」と「特別支援学級

 ここまでは学校間の二重学籍についての話題でしたが、今度は同一学校内での在籍についてです。

 私が特別支援学級を担任していたとき、「通常学級に戻る」ことが目標の生徒がいました。知的な問題はなく、いかに多人数の環境に慣れるか、自分の怒りの感情をコントロールできるか、が課題でした。

 いきなりすべての教科を切り替えることはできませんので、練習が必要です。得意な教科から通常学級(交流学級)の授業に参加して、徐々に時間数を増やしていきますが、ここでも、二重学籍の弊害が出てきます。どちらかの学級に在籍しなければいけませんが、特別支援学級に在籍している生徒は、半分以上の時間数、特別支援学級の授業を受けなければならないというルールが存在するのです。

 順調に時間数が増え、半分を超えたら通常学級に「転籍」することができれば問題ないのですが、そううまくはいきません。通常学級での時間数を増やしたり減らしたりしながら徐々に慣らしていき、「これでもう大丈夫!」という段階で正式に「転籍」するのが自然です。しかし、上記のルールを厳格に適用すると、この「増やしたり減らしたり」するたびに、在籍を変更しなくてはならなくなります。(かなりの事務作業になります)

 現実に即した制度にするには、同一学校内での「特別支援学級」と「通常学級」の二重学籍を限定的に認めていくことが必要です。

 

 まとめ

 以上が「二重学籍」についての私の意見です。現場からの意見ではありますが、市町村レベルの制度変更で可能なのか、都道府県あるいは国レベルなのか、法律に疎い私にはわかりません。様々な方の理解を得て、改善されることを願っています。

 私は国連の勧告を読んで、「よくぞ言ってくれた!」と思いました。今回は現場の人間ではどうにもできないような話題でしたが、みんなが幸せになれるような真のインクルーシブ教育の実現に向けて、現場でできる小さな実践を今後も大切にしていきたいと思います。